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マネジメントの大家が語る、部下の可能性を引き出すマネージャーに求められること──人や組織を伸ばしていくために

・ TeamUp

会社の業績を上げるためには、社員一人ひとりが能力を最大限に発揮することが重要です。しかし、社員の中には高いポテンシャルがあるのに活かせていない人や、持っている能力を十分に発揮できていない人もいるでしょう。

部下のパフォーマンスは、環境や上司の関わり方次第で大きく変わります。部下の可能性を引き出す方法について、15万部を超えるベストセラーとなった『はじめての課長の教科書』など、多くの著書を持つ酒井穣様にお話を伺いました。

酒井 穣
株式会社リクシス(http://www.lyxis.com) 創業者・代表取締役副社長

慶應義塾大学理工学部卒業、Tilburg 大学(オランダ)TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席卒業。1972年、東京生まれ。商社勤務後、オランダのメーカーに転職し、エンジニアとしてオランダに約9年在住。帰国後は、フリービット取締役などを歴任する。30年以上にわたる母親の介護経験から得た問題意識から、2016年に株式会社リクシスを創業し現職。過去には事業構想大学院大学・特任教授や、新潟薬科大学・客員教授なども歴任している。認定NPOカタリバ理事、プロ野球選手会顧問なども兼務する。
『はじめての課長の教科書』『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『リーダーシップ進化論』(BOW&PARTNERS)など著書多数。

部下を伸ばすうえで重要なのは、上司の関わり方

━━酒井様の著書『はじめての課長の教科書』は、日本で初めて、課長の重要性にフォーカスを当てたビジネス書として出版され、長年に渡って読まれ続けている本です。あらためて、課長が重要とはどういうことなのかを教えていただけますか。

会社にはさまざまな役職がありますが、中でも課長は、管理職であり、かつ現場も理解しているという、組織上、非常にユニークなポストです。日々現場で起こっていることを細かく認識しつつ、経営にも参画するような役職は、課長以外にありません

例えば、営業目標に「新規営業で毎月20件のアポイントを取る」というものがあるとします。経営層には「毎月20件」という抽象的な数字しか見えませんが、課長は「新規20件のアポイントを取るために誰が何をしている」という現場の動きが具体的に見えています。ビジネスにおいては、常に、表面的な数字だけでなく、数字の向こう側に実在するインサイトを理解することが大切です。課長は、そんな抽象と具体の結節点という意味で、会社にとって非常に重要な存在なのです。

━━ビジネスがオンライン中心になったことで、マネージャーに求められる役割や能力はどのように変化したのでしょうか。

部下との信頼関係の構築が以前にも増して重要になり、そのためのコミュニケーションスキルが格段に重要となりましたね。専門的にはハイパー・メリトクラシーがより重視される社会が到来したということです。

2020年に新型コロナウイルスが流行して以来、社員の心のケアが、社会全体の課題になりました。そうなった背景には、世の中がオンラインに移行して簡単に人と会えない環境になったため、部下が出している不調のサインを見つけるのが難しくなったということが挙げられます。心の問題に対処するためには早期に対処することが肝要ですが、直接会っていなければ、なかなか部下の変化に気付くことはできませんよね。また、心の問題に対処するためには相手のプライバシーに踏み込む必要がありますが、上司と部下とのコミュニケーションが希薄で信頼関係を築きにくい今の環境では、それも容易ではありません。

部下のメンタルヘルスのケアをするために、1on1ミーティングなどでコミュニケーションの機会を増やしたり、より高い対話スキルを身につけたりすることが、これまで以上に重要視されるようになったと感じています。

━━『はじめての課長の教科書』では、部下のモチベーション管理にも触れられていました。上司と部下のモチベーションについての考えをお聞かせください。

逆説的なのですが、ビジネスにおいて最も大切なのは、パフォーマンスがモチベーションに左右されないようにすることです。例えば、医者が「やる気が出ないから診察しない」などということはあり得ませんし、気が滅入るできごとがあったとしても手術をしますよね。モチベーションが低い時ほど、パフォーマンスを求める姿勢が、プロフェッショナルには求められると思います。

会社で働いている人のうち、定年退職までに管理職になれる人は、だいたい3割といわれています。この3割にあたるのが、モチベーションに左右されずに仕事ができるプロフェッショナルな人たちです。例えば受験生でも、やる気が起こらないからといって勉強をやめてしまう人は、第一志望には受かりませんよね。

とはいえ、会社の業績は社員のモチベーションによって変わりますので、部下のモチベーションを高めることが上司の大切な仕事のひとつであることは事実です。しかし最終的には、自分の部下をモチベーションに左右されない人材に育て、3割の中に入るチャンスを与えていくことが、マネージャーの最終的な役割といえるのではないでしょうか。

部下の能力は成功体験によって引き出される

━━では、その7割にあたる人たちに対して、上司はどのようにアプローチすべきなのでしょうか。

人は、成功体験があると、様々な物事に対して前向きにチャレンジできるようになります。しかし世の中には、学習性無力感を持っている人、つまり、成功体験がないために「自分は何をしてもだめだ」と無気力を学習してしまっている人も多数います。

管理職になれない7割の人は、優秀でないのではありません。成功体験に恵まれなかったがために、学習性無力感に陥ってしまっているだけだと思います。本当は褒めて認めてもらいたいと思っているのに、その機会に恵まれてこなかった。言い換えると、これまで誰も、その人の成長支援に成功してこなかったということですよね。それであれば、マネージャーが最後の教師になって、部下が会社のヒーローになり、褒めてもらえる道筋を作ってあげればよいのです。誰もが他者から賞賛されたいと思っています。どのようにして部下の気持ちを盛り立て、可能性を伸ばしてあげられるかが、上司の腕の見せ所でもあるのではないでしょうか。

━━部下を育てるうえで、「褒める」「叱る」「フィードバックする」のやり方に悩んでいる上司もいます。どのようにしたらよいのでしょうか。

「褒める」と「叱る」の割合は、6対1がちょうどよいバランスという意見があります。叱られてばかりいると仕事が嫌になってしまいますし、褒められてばかりいると、それ以上成長できませんよね。6対1というのはあくまでも目安ですが、とにかく十分に褒めている前提があってから、初めて、叱ることに意味が出てくることは間違い無いでしょう。

また、フィードバックが難しい時や、どこまで踏み込んでよいのか分からない時には、部下に「甘口、中辛、辛口のどれがいい?」と聞いてみるのもひとつの方法です。部下にもその日の気分がありますから、フィードバックの厳しさを、部下に選択させるのもアリだと思います。

とにかく、部下の中には、ネガティブフィードバックをパワハラのように受け取ってしまう人もいれば、フィードバックをしっかりもらって成長したいと考えている人もいるので、相手に合わせた対応をすることが大切です。

部下の成長のためには上司と部下との関係構築が重要

━━「フィードバック」と「ハラスメント」のバランスは、多くの上司が悩んでいる課題のひとつですね。

だからこそ、相手に合わせることが必要なのです。例えば、ストレス耐性が高い部下であれば、辛口のフィードバックを受け取ることに慣れているかもしれません。そういう人たちはネガティブフィードバックを受け止めて改善していくので、早く成長することができます。「甘口ならよい」「辛口はハラスメント」と一概にいえるものではないというのが、難しい点でもありますね。

━━社員全員がネガティブフィードバックを受け止められるようになるためには、どうするとよいのでしょうか。

まずは、メンタルヘルス・マネジメントの勉強が欠かせないですね。その基礎があった上で、社員のストレス耐性を高めることだと思います。実はストレス耐性には、家族や親友などの、いわゆる第一次集団が大きく関係しています。会社はパフォーマンスだけが評価されるところなので、自分が評価される場が会社しかない人は、自分のパフォーマンスをネガティブに評価されると行き場がなくなってしまいます。しかし第一次集団との関係が安定している人は、家族や親友が自分自身の存在そのものに価値を見出してくれるので、仕事のネガティブフィードバックを受け止めることができる可能性が高まると思います。

━━上司と部下との間でも、第一次集団のような関係を作ることは可能なのでしょうか。

第一次集団とは家族や親友などのことをいいますが、第一次集団のような関係を擬似的に会社に持ち込み、同じように機能させることは可能です。部下が上司を「家族のように安心できる存在」ととらえていれば、第一次集団のような安心感が生まれます。すると、見捨てられることはないという前提があるので、ネガティブフィードバックも安心して聞くことができるようになるはずです。そのためには、上司側が部下とそのような関係を作れるように努めることが大切です。

━━最後に、マネージャーの皆さんにメッセージをお願いいたします。

マネージャーの皆さんには、ぜひベンチャー企業の社長のような気持ちで仕事をしてもらいたいと思います。部下の人生を預かっているのと同時に、他人からお金を預かっているという責任感を持って仕事をしているのが経営者です。

社長は投資家に対して事業計画を提出して資金調達をしますが、その経験があると、自分が誰のリスクによってこの仕事ができているかということに対する肌感覚を持つことができるようになります。仮に資金調達を直接的に経験できないにせよ、人件費などのコストは、自分たちを応援してくれている誰かのお金であることは、決して忘れてはなりません。

ビジネスは面白いし、人生は面白いです。辛いことも多いと思いますが、この社会の未来は、私たち一人ひとりの仕事にかかっています。一緒に頑張りましょう。

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